患者対応を「めんどくさい」「また呼ばれた」と感じること自体は、忙しさや緊張が続く現場で起こり得る反応です。ただし、その印象のまま患者を決めつけると、症状の変化や未充足のニーズを見落とし、対応がスタッフごとにぶれるおそれがあります。
対処の出発点は、患者を評価する言葉を、観察できる行動と困っている状況へ言い換えることです。そのうえで緊急性を判断し、訴えを一度整理し、できること・できないことと次の見通しを伝え、チームで対応を統一します。暴言・暴力や身の危険がある場合は、一人で受け止めず安全確保を優先してください。
「めんどくさい患者」を行動と背景に言い換える

「めんどくさい患者」は診断名でも客観的な状態でもありません。たとえば「何度も呼ぶ」「説明しても納得しない」「ケアを拒否する」「要求が多い」など、看護師が負担を感じている具体的な行動へ分けます。次に、その行動がいつ、どの場面で、何の前後に起きるかを確認します。
同じ言動でも背景は異なります。
- 痛み、呼吸苦、悪心、排泄、睡眠不足などの身体的苦痛
- せん妄、認知機能の変化、精神症状、薬剤や離脱の影響
- 治療や予後への不安、孤独、家族・仕事・費用への心配
- 聴力・視力・言語・理解度に合わない説明
- ナースコールへ応答する人や説明内容が毎回違うことへの混乱
- 自分で選べることが少なくなった喪失感
- 過去の医療体験による不信や恐怖
まず急変や新たな症状の可能性を除外します。「いつもの訴え」と思っても、発症時刻、程度、バイタルサイン、意識、表情、摂取・排泄、治療との関係を確認します。判断に迷う場合は、患者の性格として処理せず、リーダーや医師へ具体的な変化を報告します。
日本看護協会の「看護職の倫理綱領」は、看護職が人間の生命、尊厳、権利を尊重し、個別的特性やニーズに応じた看護を提供することを示しています。尊重することは、すべての要求を無条件に受け入れることではありません。患者の必要性を評価し、安全で公平な範囲を説明することも専門職としての対応です。
記録や申し送りでは、「わがまま」「クレーマー」「依存的」など解釈だけの表現を避けます。「10時から11時にナースコール4回。疼痛なし。排泄希望2回、退院日への質問2回。説明後も質問が続いた」のように、時刻、言動、評価、対応、反応を分けます。
患者対応の基本5ステップ

1.緊急性と安全を確認する
最初に、急変、転倒、自傷・他害、治療機器の自己抜去など、すぐ介入が必要な状況かを確認します。声の大きさや話し方に目を奪われず、症状と安全上のリスクを先に評価します。緊急性があれば通常の話し合いより救援要請・診療を優先します。
2.訴えを遮らず、要点を一度受け止める
「心配なのですね」と感情を断定するより、「退院後の薬について説明が一致せず困っているのですね」のように、確認できた内容を短く返します。賛否を示す前に要点を復唱すると、聞き違いを減らせます。
長い訴えでは、最初に時間の枠を共有します。「今は5分ほどお話を伺えます。まず一番確認したいことを教えてください」と伝えます。約束できない時間を安易に提示せず、離れる場合は次に戻れる見通しを示します。
3.必要性と背景をアセスメントする
身体症状、理解、心理・社会的背景、環境、これまでの説明を確認します。患者が求めているのが処置なのか、情報なのか、選択肢なのか、安心なのかを分けます。看護師だけで解決できない内容は、医師、薬剤師、医療ソーシャルワーカー、退院支援担当、患者相談窓口などへつなぎます。
4.できること・できないこと・次の見通しを伝える
断る必要があるときは、患者そのものを否定せず、対象となる行動や要求を明確にします。
「今すぐは無理です」だけで終えず、「現在は隣室の処置中です。安全確認のため、15時ごろに担当者と伺います。痛みや息苦しさが強くなった場合はすぐ知らせてください」のように、理由、代替案、再評価の条件を伝えます。
「病院の決まりだから」と一方的に示すより、安全、公平性、治療上の理由を簡潔に説明します。医師の判断が必要な要求は、看護師が可否を約束せず、確認する内容と回答の見通しを伝えます。
5.記録し、チームで対応をそろえる
対応者によって説明や許容範囲が変わると、患者はさらに確認を繰り返し、スタッフも疲弊します。カンファレンスで、患者のニーズ、効果があった声かけ、対応可能な範囲、主な説明者、再評価の時点、危険時の対応を共有します。
統一するのは患者を管理するためではなく、安全で予測可能なケアを提供するためです。患者にも「担当者間で共有し、同じ方針で対応します」と説明します。
場面別|困る言動への伝え方と対処

ナースコールが繰り返される
毎回の緊急性を確認したうえで、コールの理由を記録し、痛み、排泄、不安、環境、説明不足などのパターンを探します。訪室時に「次の1時間で必要になりそうなこと」を一緒に確認し、飲水、体位、排泄、手の届く物品を整えます。定時訪室を約束する場合は、チームで実行できる間隔にします。
コールを減らすこと自体を目標にせず、必要な援助が得られ、患者が次の見通しを持てることを目標にします。新しい症状や転倒リスクがある場合は、頻回であることを理由に応答を遅らせません。
要求が多い、特定の看護師だけを指名する
要求を、安全・治療上必要なもの、生活上調整できるもの、対応できないものに分けます。優先順位を患者と確認し、一度に対応する項目を絞ります。
特定スタッフの指名が続く場合は、理由を尋ねます。説明の分かりやすさや過去の体験が背景なら、共有してチーム全体の対応を改善します。個人的な関係を求める、担当者の私生活を聞く、連絡先を求めるなど支援関係を越える言動には、「個人的な連絡先はお伝えできません。治療や生活で困っていることはチームで伺います」と境界を明確にします。
検査・投薬・ケアを拒否する
「非協力的」と決めず、拒否している内容、理解、理由、意思決定能力、緊急性を確認します。痛み、恥ずかしさ、過去の体験、説明不足、時間帯、担当者との関係が影響していることがあります。
目的、利益、不利益、代替案を患者の理解度に合わせて説明し、質問を医師へつなぎます。強制せず、患者の意思と説明内容、対応、医師への報告を記録します。ただし、生命・安全に関わる緊急時や判断能力に懸念がある場合は、一人で結論を出さず医師・責任者へ速やかに相談します。
同じ質問や苦情が繰り返される
まず、説明内容が一致しているか、聞こえ方や理解度に合っているかを確認します。許可された説明資料を使い、要点を患者自身の言葉で確認してもらいます。回答できる担当者と回答時刻を明確にし、スタッフ間で経過を共有します。
診療内容と関係のない苦情が長時間続く場合や、同じ要求を繰り返して業務に支障が出ている場合は、患者相談窓口、医療安全、事務部門、管理者など施設の担当へ引き継ぎます。一人の「話の聞き方」の問題にせず、組織で対応します。
暴言・暴力・ハラスメントでは安全を優先する

共感的に聞くことと、暴言・暴力を受け続けることは別です。侮辱、威嚇、性的な発言・接触、物を投げる、殴る、退室を妨げるなどがあれば、施設の緊急対応に従います。
危険を感じたときの基本は次のとおりです。
- 一人で対応せず、応援や責任者を呼ぶ
- 出口を確保し、物理的な距離を取る
- 周囲の患者やスタッフの安全を確保する
- 短く落ち着いた言葉で、許容できない行動を伝える
- 危険が切迫していれば警備・警察など施設の連絡基準に従う
- 発生した言動、時刻、場所、対応、負傷・被害を客観的に記録する
- 事後に上司、医療安全、産業保健などへ報告し、支援を受ける
たとえば「大声を出さないでください」だけでなく、「大声や机をたたく行為が続く場合、この場で一人では対応できません。責任者を呼びます」と、行動と次の対応を伝えます。危険な状況で説得を続けないでください。
厚生労働省は「医療従事者の勤務環境の改善について」で、患者・家族による暴力・ハラスメント対策の学習教材を公開し、日頃の備え、発生時、発生後を含む組織的対応を扱っています。日本看護協会も「看護職の労働安全衛生」で、患者の尊厳とともに看護職が安全と尊厳を保って働ける職場づくりを示しています。
対応後に動悸、眠れない、場面を思い出す、出勤が怖いなどが続く場合は、上司、産業保健、職員相談窓口などへ早めに相談します。交代を求めることは責任放棄ではなく、安全な看護を継続するための行動です。
患者対応で疲弊しないためのチームづくり

個人の会話技術だけで解決しようとすると、特定の看護師へ負担が集中します。カンファレンスでは、患者の悪口を共有するのではなく、観察事実と目標をそろえます。
共有する内容は次のとおりです。
- 何が、いつ、どの場面で起きているか
- 身体・認知・心理・社会面で評価したこと
- 患者が最も困っていると話していること
- うまくいった説明や環境調整
- 対応できる範囲と、医師・管理者へつなぐ条件
- 暴言・暴力など安全上のリスクと緊急連絡方法
- 次に再評価する時点と担当
看護師自身が患者へ強い苛立ちや苦手意識を持つと気づいたら、感情を否定するのではなく、対応を短時間交代し、振り返ります。睡眠不足、人員不足、連続する重症対応など、個人以外の要因も確認します。
勤務ごとに同じ患者への対応で休憩が取れない、相談しても一人へ任される、暴言・暴力後の支援がない状態が続く場合は、師長、看護部、医療安全、職員相談窓口へ具体的な事実を伝えます。配置・運用・研修の改善が難しく、心身への影響が続くときは、異動や転職を検討することも選択肢ですが、まず安全確保と専門的な相談を優先してください。
めんどくさいと感じる患者対応のよくある質問

患者に共感できない自分は看護師に向いていませんか?
一時的な感情だけで適性は判断できません。共感を「同じ気持ちになること」と考えず、患者が何に困っているかを確認し、必要な看護を公平に提供する行動へ置き換えます。強い疲労や嫌悪が続く場合は、休息、担当調整、振り返り、相談が必要です。
要求を断るとクレームになりませんか?
曖昧に先延ばしするより、できる範囲、できない理由、代替案、回答時刻を一貫して伝える方が見通しを持ちやすくなります。重大な不満や医療内容への質問は、責任者・医師・相談窓口へつなぎます。
対応を交代してもらってよいですか?
安全が脅かされている、感情が高ぶって冷静に対応できない、同じ説明を繰り返して進展しない場合は、早めに交代を依頼します。患者へは「責任者と確認して対応します」と伝え、突然放置しないよう引き継ぎます。
まとめ|患者を決めつけず、一人で抱え込まない

「めんどくさい」と感じたら、患者を責める前に、具体的な言動、発生場面、背景、看護師側の負担を分けます。急変を除外し、訴えを短く整理し、できること・できないことと次の見通しを伝え、記録とチーム共有につなげます。
次の勤務で行うことは、以下の4点です。
- ラベルではなく、時刻・言動・症状・対応・反応を記録する
- 患者が最も困っていることと、チームが目指す状態を確認する
- 対応範囲、主な説明者、再訪時刻、エスカレーション基準を共有する
- 暴言・暴力や身の危険があれば、一人で対応せず安全を確保する
今の職場で対応方針や担当調整を相談しても改善せず、心身への影響が続く場合は、環境を変える選択肢もあります。求人一覧を見る際は、患者層だけでなく、暴力・ハラスメント対策、複数名対応の基準、警備体制、相談窓口、事後支援について確認してください。
